沖縄の離島
新婚の夫婦、健と美沙は、結婚記念日を祝うため、沖縄の未開発の島を訪れた。
この島は観光地化から逃れたままの原始的な美しさを保っており、二人はその静寂と自然の美しさに魅了された。彼らは島の探索を楽しんでいたが、日が沈む頃に不気味な遠吠えのような声が聞こえてきた。
興味をそそられた二人は声の源を追い、やがて古ぼけた石碑が立ち並ぶ墓地に辿り着いた。
この場所はかつて激しい戦闘が行われた地で、多くの兵士が命を落としたという看板が建っていた。健と美沙は、その重い歴史の空気を感じながら墓地をさらに進んだ。突然、地面から無数の手が現れ、美沙の足首を強く掴んだ。健は美沙を必死に引っ張ったが、その手の力は強く、美沙は地中に引きずり込まれてしまった。
健は美沙が消えた後、混乱と恐怖の中で何とか島の港へとたどり着いた。彼の体は泥と汗で覆われ、顔は青ざめていた。港に着くと、最初に出会ったのは地元の漁師だった。健は漁師に助けを求めたが、その夜の出来事を話しても信じてもらえなかった。しかし、漁師は健の取り乱した様子を見て何か大変なことがあったと察し、彼を自分の船で本島へ連れて行くことにした。
船上で健は何度も後ろを振り返り、島が見えなくなるまでその景色を眺めていた。彼の心は美沙が消えた場所に留まり、帰るべきでないという罪悪感にさいなまれた。本島に戻った後、健は直接タクシーを捕まえて自宅に戻ることを選んだ。タクシーの中でも、彼の心は完全には落ち着かず、美沙がどこかで助けを求めているのではないかという思いが彼を苛んだ。
自宅に到着した健は、ドアを開ける手が震えていた。家の中に入ると、彼は美沙が最後に笑っていたリビングルームに目を向け、一瞬で涙がこぼれ落ちた。彼は美沙の写真を一枚ずつ手に取り、彼女の声が聞こえるかのように耳を澄ました。しかし、返ってくるのは静寂だけだった。
その夜、健は一睡もできず、家中の音にびくびくしながら過ごした。彼の心と家は、美沙の空席によって永遠に変わってしまった。美沙からの手紙と写真が届いたとき、彼はそれを手に取るのが怖かったが、同時にどこかで彼女がまだ生きているのではないかという望みを捨てきれなかった。
手紙は沖縄のその島の墓地の住所から送られており、中には一枚の写真が添えられていた。写真にはゾンビのように変わり果てた美沙の姿があり、手紙には彼女の筆跡で「健へ、ここは暗くて寒いの。助けて欲しい。」と書かれていた。
健は手紙と写真に深い恐怖を感じ、美沙がまだどこかで苦しんでいるとの思いに駆られた。彼は夜ごとに美沙が戻ってくるのではないかと怯えながら過ごし、家の中で物音がするたびに心臓が跳ね上がる日々を送るようになった。
美沙の存在が健の日常に恐怖の影を落とし続け、彼は心の平穏を取り戻すことができずにいた。
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