デパートの5階
私は息子の新しい洋服を探しに、郊外にあるあまり大きくない百貨店へと足を運んだ。
平日の昼下がりだったので、店内はほとんど人がおらず、静かで落ち着いた雰囲気が漂っていた。息子の手を引き、エレベーターに乗り込み、子供服売り場があるはずの5階へ向かった。ドアが開くと、そこは…
息子と私が目にしたのは、まるで時間が止まったような古びたフロアだった。
ひび割れた壁、薄暗い照明、そして人の気配が一切しない。息子が不安そうに私の手を握りしめた。まさかと思いつつも、私たちはそのフロアを前に進んだ。
廊下を進むにつれ、奇妙なことに気づいた。壁にかかっている絵画が、私たちをじっと見ているような気がしたのだ。恐る恐る近づいてみると、それは子供たちの絵だった。彼らの表情はどこか悲しげで、私たちを見つめるその目には深い孤独が宿っているように感じられた。
「ママ、こわいよ…」息子の声に我に返り、私は急いでその場を離れようとした。でも、どうやって来たのか分からなくなってしまっていた。私たちは迷っていた。エレベーターを探しながら歩き回ること数十分、ふと足元に光が差し込んでいるのに気づいた。それは外への出口のようだった。
光の方向に進むと、そこには普通の百貨店が広がっていた。人々が笑顔で買い物をしており、何事もなかったかのようだ。私はホッと一息つき、息子を抱きしめた。しかし、私たちが安堵の息をついているその時、ふと、あの絵の子供たちが私たちを見送っているような気がして、振り返った。
けれど、そこには何もなかった。ただの壁だけ。あの奇妙なフロアは一体何だったのだろう?私たちが体験したことは夢だったのだろうか?
帰り道、息子が小さな声で言った。「ママ、あの子たち、さみしそうだったね。」その言葉を聞いた瞬間、私の背筋に冷たいものが走った。あのフロア、あの子供たちの絵…それは決して夢などではなかった。
以来、私たちはあの百貨店には近づかない。でも時々、夜中になると、あの子供たちの声が聞こえてくるような気がするのだ。彼らはまだあそこにいるのだろうか?そして、彼らは一体何者なのだろうか?
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