呪詛渦巻く穢れた土地
高知県の奥深く、人々が忌み嫌う忘れられた土地があります。
この場所は「犬神の森」と呼ばれ、長い歴史の中で不穏な呪術が頻繁に行われたとされています。土地は穢れ、現在もその境界を越えることは厳禁とされています。
好奇心旺盛な大学生A君は、伝承や未解決の謎に魅了され、特に「犬神の森」の話に興味を持ちます。友人たち、B君とCさんと共に、この禁忌の地を探検することを決意します。しかし、彼らが体験することになるのは、想像を絶する恐怖でした。
A君とその友人たちは、好奇心とスリルを求めて犬神の森へと向かいました。彼らは、ただの心霊スポット巡り程度に考えていました。
A君とその友人たちは、日頃の大学生活からの脱却を求め、何か特別な体験を共有したいという強い願望がありました。好奇心と少しの不安を胸に秘めつつ、友人の一人が運転する車で、地図アプリと伝聞を頼りに、高知県の奥地へと向かいます。
途中、曲がりくねった山道を抜け、時折見え隠れする案内板が彼らの唯一の道しるべでした。車内では、緊張を和らげるための冗談や笑い声が交わされますが、森の入口に近づくにつれ、彼らの心境にも変化が現れ始めました。周囲の景色が次第に手つかずの自然に変わり、人里離れた静けさと、時折吹く冷たい風が彼らの心に不穏な予感を植え付けます。
森の入口に車を停めた時、A君たちは一瞬、無言になりました。目の前に広がるのは、厚い霧に覆われた神秘的だが、どこか不気味な森でした。彼らはこの瞬間、訪れた場所が単なる噂話の舞台を超える何かを秘めていることを直感します。しかし、好奇心が恐怖を上回り、A君は「大丈夫、ただの森だ」とつぶやきながら、仲間たちを先導して踏み込みました。
森を進むにつれ、A君たちの周囲は次第に静寂に包まれ、その静けさは不気味なほどでした。彼らが足を踏み入れた道は、見慣れない苔むした石や曲がりくねった木の根が生い茂り、まるでこの森が彼らを歓迎していないかのように感じられました。方向感覚を失った彼らは、GPSさえも信号を失い、途方に暮れます。
空気は湿って重く、時折聞こえる不可解な声は、遠くから、またはすぐ傍から聞こえるかのように不規則でした。何かが彼らの存在を知っているかのように、枝が軋む音や、足元で何かが這う音が聞こえ、背後からは見えない何かの視線を感じるようになります。
その時、突然、彼らを包み込むようにして濃い霧が立ち込めます。視界は一瞬にして白く霞み、手を伸ばしても自分の指先さえ見えないほどでした。森を一歩進むごとに、彼らの体は冷や汗でびっしょりと濡れ、その汗は恐怖と不安でどっと出て止まらなくなりました。A君は深呼吸を試みますが、湿った空気は彼の肺を満たすだけで、安堵を与えることはありませんでした。
不安を抱えながらも、彼らは手探りで進むしかありません。足下では、時折何かが触れる感触があり、それが枯れ葉なのか、それとも他の何かなのか区別がつきません。耳を澄ませば、霧の中からささやくような声が聞こえてきます。「戻れない…」その言葉は風に乗って彼らの心に深く刻まれ、逃げ場を失った彼らの恐怖を一層煽り立てました。
この時点で、A君たちはこの森がただの心霊スポット以上の何か、古くからの穢れと不幸を孕んだ場所であることを悟ります。しかし、彼らに残された選択肢は前に進むか、霧の中で迷い続けるかの二つだけでした。
その霧の中、友人の一人が「何かに引っ張られる!」と叫びます。A君が振り返ると、友人の姿は既に霧の中に消えていました。残された二人は必死に友人を探しますが、その時、不吉な遠吠えが森全体に響き渡ります。
恐怖に駆られたA君たちは、必死に犬神の森を後にしました。霧が濃い中、彼らは何とか車に辿り着き、一気に麓まで駆け下りました。心臓の鼓動が耳を打つ中、彼らは安堵の息をつきながら、森の近くにある小さな商店へ立ち寄ります。
店の中には、この地を良く知る老婆が一人で店番をしていました。A君たちが森からの帰りだと気づくと、老婆の表情は一瞬にして曇ります。彼らに温かいお茶を勧めながら、老婆はゆっくりと口を開きました。
「あんたたち、犬神の森に入ったのね。かわいそうに、長生きはできないね」と。
その言葉を聞いた時、A君たちはただの心霊体験以上の何か、自分たちの運命に深く関わる恐ろしい呪いに触れたのかもしれないという恐怖を感じました。老婆の言葉は、彼らが森で感じた不安と恐怖を再び思い起こさせ、帰路の車内は重苦しい沈黙に包まれました。
その後、彼らが森を訪れた日から約1ヶ月後、老婆の予言のような不幸が次々と彼らを襲います。一人は不慮の事故で電車に轢かれ即死し、もう一人は謎の病に倒れ意識不明の重体となりました。A君自身も、日常生活の中で突如として起こった事故により、四肢を切断する運命を迎えます。
この穢れた土地に渦巻く呪詛は、好奇心に駆られた若者たちに深い傷を残しました。犬神の森が秘める闇は、ただの伝承や噂話ではなく、過去から現在へと受け継がれる恐怖の証でした。
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