顔のある植物
美穂は最近、部屋での新しい趣味として植物の育成に興味を持ち始めていました。
地元の園芸店で見つけた珍しい苗木を3つ購入し、それらを自宅の小さなバルコニーに並べて愛情を込めて世話をしました。最初のうちは、これらの植物たちが新鮮な緑を部屋にもたらし、美穂の心を和ませてくれました。しかし、その中の1つが徐々に他とは異なる成長を見せ始めたことで、美穂の日常は一変します。
この特別な植物は、驚くべき速さで成長を続け、やがてその葉の一部が人の顔を思わせる形に変形し始めました。美穂は当初、この現象を不思議に思いながらも、何か特別な品種なのかもしれないと考えていました。しかし、その植物の存在が次第に不気味さを増していくにつれ、美穂の心は不安で満たされていきました。
ある夜、美穂が深い眠りから覚めると、部屋の隅からか細い声が聞こえてきました。「水を…くれ…」。声は明らかに人間のものではありませんでしたが、美穂はその声が顔のような形をした植物から発せられていることに気づきました。恐怖に駆られながらも、美穂はその植物に水をやり、何かの間違いだと自分に言い聞かせようとしました。
しかし、その後も植物からの声は続き、「助けて…」や「ここから出して…」という言葉が夜ごとに美穂の耳に届きました。美穂はこの事態を誰かに相談しようと考えましたが、このような不可解な現象を誰が信じてくれるでしょうか。結局、美穂はこの秘密を一人で抱え込むことにしました。
数週間が経過したある朝、美穂は自室で息絶えているのが発見されました。彼女の周りには、以前購入した3つの植物のうち2つが残されていましたが、顔のような形をした植物だけが見当たりませんでした。警察は美穂の死を不審な事故として捜査しましたが、部屋の中で生き生きとしていたのは、あの2つの植物だけでした。
美穂の死後、その顔のような形をした植物の行方について、地元では様々な憶測が飛び交いました。一部からは、この植物が何らかの超自然的な力を持っていたのではないかという噂もありましたが、真相は謎のままです。
この出来事から数年が経過した今でも、美穂が育てていたその植物にまつわる不気味な話は、地元で語り継がれています。そして、人々は植物を育てる際には、その由来や性質をよく理解することの重要性を改めて認識するようになりました。美穂の部屋で起きた出来事は、自然界の不思議と恐怖が入り混じった、解き明かされない謎として記憶されているのです。
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