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【洒落怖】深夜の橋への旅客

乗客を待つタクシー運転手
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深夜の橋への旅客

私がタクシー運転手として勤める中で、忘れられない夜があります。

その日は冬の深い寒さが街を包み込み、夜空には星一つ見えないほど曇っていました。深夜のシフトも終わりに近づき、私はもう帰ろうかと思っていたその時、ふと道端に立つ一人の老紳士の姿が目に留まりました。

彼は年齢を感じさせる落ち着いた装いで、深夜にも関わらず、どこか遠くを見つめるような表情をしていました。私は車を停め、彼を乗せることにしました。

タクシーに乗り込む老紳士

「古い橋のたもとまで」と彼は静かに言いました。その場所は、かつては賑わいを見せていたものの、今は人々の記憶から忘れ去られた廃れた橋でした。

車を走らせる中で、外の寒さとは裏腹に、車内には彼から発する不思議な温もりがありました。しかし、彼はずっと無言で、私が話しかけてもほんの少し頷くだけで、何も話そうとはしませんでした。その沈黙は、徐々に車内を包む独特の空気を生み出し、私は不思議な感覚に襲われました。

橋のたもとに着くと、老紳士は「ここでいい」と言い、車を降りました。料金を払おうとした際、彼の手から古びた写真が落ちました。それは、橋の上で幸せそうに笑う若い男女の写真でした。彼はその写真を受け取り、深い感謝の意を示してから、夜の闇の中へと消えていきました。

私が車を動かそうとした瞬間、エンジンが停止しました。外はさらに冷え込み、雪も強くなっていました。携帯電話で助けを求めようとしたその時、後部座席に老紳士がいるような気配を感じました。振り返ると、そこには誰もおらず、ただ彼から受け取った写真だけが残されていました。

エンジンがかからなくて立ち往生しているタクシー

その夜の出来事が夢だったのか現実だったのか、今でも分かりません。しかし、後で知ったことですが、その橋でかつて若い男女が事故に遭い、この世を去ったという悲しい話がありました。老紳士は、その二人に何らかの関係があったのかもしれません。

それ以来、私はあの橋を避けて通るようにしています。

あの夜以来、不思議な出来事や不可解な客に遭遇することはありませんでしたが、あの深夜に体験したことは、私の心に消えない印象を残しました。夜の静けさの中で、過去と現在が交差する瞬間を体験したような、そんな感覚を覚えます。

この世にはまだ私たちが知らない、数多の物語が存在しているのかもしれません。

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